タオ自然学
五年前のある夏の夜、浜辺に座っていた私は、砕ける波を見ながら私自身の呼吸のリズムを感じていた。突然、私は、私を取り巻くすべての世界が巨大なダンスの結果なのだという事実に思い当たった。物理学者として、私は、私を取り巻く砂や岩や水や大気が振動する分子や原子から成り立っており、それらは他の粒子との相互作用によって生成・消滅される素粒子から構成された安定な物質であることをよく知っていた。また私は、地球の大気には宇宙線の雨が常に降り注いでおり、それらは大気に突入するやいなや何度も衝突する高エネルギー粒子の雨となることもよく知っていた。わたしの研究分野が高エネルギー物理学だから、それらの一切についてよく精通していたのだ。しかし、その時まで、私はグラフや図表や数学の理論を通じてのみ、それらを経験していたに過ぎなかった。
浜辺に座っている間に、私が取り組んできた理論に生命が息づいていた。私は、リズミカルに脈動しながら生成・消滅する粒子の真っただなかにいて、宇宙から降り注ぐエネルギーの滝を見ることができたのだ。自然を構成する基本粒子である原子も、私の体を作る原子も、同じ宇宙のリズムを踊っているという事実が感じ取れた。そのリズムを感じ、その音を聞きながら、まさにその瞬間に、宇宙のリズムがヒンズー教で崇拝されている舞踏の神シバの踊りであることを直感したのだった。
-フリッチョフ・カプラ「タオ自然学」1975年